柴崎 嘉寿隆ブログ「自分セラピー」

『めりーくりーすます、みすたーろーれんす』

クリスマス時期になると、
それぞれの思い出がよみがえってくる。
それはクリスマスソングによって、
また映画や物語によって。

ボクが真っ先に思い出すのは、
ディケンズの『クリスマス・キャロル』
ごうつくばりのスクルージの名前は、
欲にかられることの戒めと共に記憶に残る。

もう一つ、忘れられない映画のセリフがある。
『めりーくりーすます、みすたーろーれんす!』
あの、北野武の声と、なんともたどたどしいセリフが頭に残る。
そう、あの『戦場のメリークリスマス』デヴィッド・ボウイや、
坂本龍一という異色のキャストを配した大島渚監督の作品だ。
実は映画を観てはいないのだけれど、その場面は何度もテレビで
放映されていたから、耳にこびりついて知っている。

原作を読んだことのある人は、どれほどいるだろうか

『影の獄にて』L・ヴァン・デル・ポスト

河合隼雄先生のエッセイで、
ユング研究所に在籍中にマイヤー先生に尋ねられた。
「何か困ったことはありますか」と。
河合隼雄さんは、何も困ったことはないけれど、と前置きをして、
実は、文化の違いに驚き、戸惑っている、と答えました。
当時はまだ日本人は珍しいし、東洋からユング研究所に
やってきたことで精神的な負担はかなりあったようです。
その時にマイヤー先生が、
河合隼雄先生に「この本を読んでごらんなさい」と
伝えて渡されたのが、『影の獄にて』。

河合隼雄先生はそれを読み、思いがけず涙がとめどなく
あふれだしたと書いています。

インド洋の島にある捕虜収容所。
そこで拷問を繰り返す収容所軍曹のハラと、
捕虜のローレンスのものがたり。
ローレンスはひどい仕打ちをされながらも、
ハラを一人の忠実な軍人として尊敬する。

「ハラは本物の武人だ。
ためらうことなく殿様と主君に従って戦場に行き、
まぎれもない本物の封建臣下である」と。
ローレンスは死刑も間近というある夜に、
ハラから呼び出しを受ける。
死を前にまた、殴られるのかと思いながら
ハラの部屋に連れられて行く。
すると、思いがけずハラにこう伝えられる。
「ろーれんすさん。ふぁーぜる・くりーすます。しっとるかな?」
さんづけをされたあげく、突然の言葉に戸惑ったものの、
納得がいって「知っていますとも、ハラさん」と答えた。
「今夜、わたし、ふぁーぜる・くりーすます!」
と3,4回大声で笑いながら言った。
そして、ローレンスはハラによって、
クリスマス恩赦を与えられたのです。

その後終戦を迎え、結局ハラはとらえられ
死刑になるのだけれど、
その前の晩にローレンスとハラは面会する。
ハラはこう伝えます。
生きて恥をさらしたくはないから、
もとより死を恐れてはいない。
ただ、わからないことがあるのです、ローレンスさん。
なぜ国のために忠実に戦争をした自分が、
あなたの国の理屈で罰せられればならないのがわからないのです、と。

人の価値観の違い、文化の違い、
その基準でなされる選択や決断による悲劇。

何度読み返しても、答えは見つからない。
でも、それを超えて、
ハラはローレンスの国の文化を受け入れ、
笑いながら伝えた言葉が心を打つのです。

「めりーくりーすます!みすたーろーれんす!」

週末はクリスマス。
それぞれの、素敵な夜をお過ごしください。

影の獄にて

投稿者:柴崎 嘉寿隆

クエスト総合研究所代表取締役  JIPATTディレクター(Japan International Program of Art Therapy in Tokyo Director)、 NPO法人子ども未来研究所 理事長