「Kitwoodは,従来の医学的対応に基づくケアを”オールドカルチャー”, パーソンセンタードケアを“ニューカルチャー”と呼んで新しい認知症ケアと位置づけた.ちなみにオールドカルチャーとは, 例えばアルツハイマー型認知症は,脳の進行性病変によるものであり, ケアは衛生状態や食事の摂取,排泄,入浴などを介助することとするが, ニューカルチャーでは認知症はその生活(暮らし)の障害ととらえて,その人らしさを支える全人的ケアであるとし,衛生,食事,排泄などはその一部に過ぎないとしている.私たちが認知症の人のケアをするとき,大切なことは当事者でのある方の想い, 考え, 声を自分の力のすべてをふりしぼって聴くこと,受け止めることから始まる.そのためには,自分の力を抜き,明るい気持ちで微笑みを浮かべながら静かに認知症の人に接することである.」
出典)心身医 Vol.56 No.5,2016 「高齢化社会の生き方と支え方」長谷川和夫
高齢者のアートワークの現場では「やらない」も認めている。そのやらないという「選択」に寄り添っていく。はじめは5分、次は10分と来てはすぐ帰りを繰り返していた方が徐々に着席時間が延び、ついに1時間ワークに参加できるようになっていた。今振り返ってみると私たちがしていたのは「やらない」を受け入れていたこと、そしていつでも笑顔で迎えていたこと、名前を必ずお呼びしていたこと。
しばらくしてその方はジェスチャー付きでこういった。
「私はこれだからこんなことをしていてはいけないんです」
そのジェスチャーは鉄砲を撃つ様子を表していた。
戦争を経験し大勢のお仲間を亡くされたその方は自分の残された人生の時間に「楽しむ」を入れていけないと思われてようでした。
それからしばらくして認知症は進行していったけれど、その方はアートの時間に冗談を言ってみんなを笑わし、いろいろな素材を通して自分を表現していくようになりました。
その方が戦争を経験する以前からあったその人らしさがたくさん現れていたように思います。(Staff Y)