アートセラピーインタビュー2

クエストの『アートセラピスト養成講座』では、理論やスキルを学ぶだけではなく、〈自分を知る〉ということも大切にしています。
だからこそ、内閣府所管(一財)生涯学習開発財団認定のアートワークセラピスト資格が取得できるようにもなりました。
では、なぜアートセラピストになるために、〈自己分析〉が大切なのか。

「心理療法と自己分析」クラスの講師もつとめる、クエスト代表 柴崎に話をうかがいました。

※インタビューアー 大橋(マッキー)



 

―クエストでアートワークセラピストの資格を取得するためには、自己分析を行うクラスも必須となっていますね。なぜ、セラピストになるために自己分析が大切だと思われますか?

【柴崎】アートセラピーは、その目的が臨床だから、人の心の構造を知っていなくてはいけない。でも、それをクライアントの心で検証することは難しい。だから、自分にそれを当てはめて、人間の心の構造を探求するわけです。

心の構造を知るためには、認知行動療法の分野、精神分析の分野、人間性心理学などいろんな心理学の分野があるけれど、見えない心を見えるようにするアートはとても役に立つんです。

僕たちがやっているアートセラピーは、ユング心理学をベースにして、ゲシュタルトとか、ロジャースの来談者中心療法とか、そういったものを取りまぜながら、ビジュアルでその人の心にアプローチをしていくということをやっていて、だからなおさら、それを自分に当てはめやすい。

―そもそも自分を知ることの意義や価値はなんでしょうか。

【柴崎】まず、僕たちは、他人を見た時に、自分の経験から「この人はこういう人だろう」と勝手に推測する。実はそれは「投影」で、自分の内的なものをその人に映し出しているだけなんですよ。自分が過去に見聞きした、或いは出会った誰かの印象を、目の前の人に投影してしまうんです。
投影を自覚していないと目の前の人を判断したり、枠組に当てはめてしまう危険性がたくさんあるわけ。

こういう投影を避けるために、自分という人間が今日の今日までどういう生き方をしてきたのか、どういうことで心が傷ついたのか、そして、それが現実のどういう時に影響が出ているのかということをよーく知っておかないと、目の前にいる人を独立した人としてではなく、そこに自分を映し出したスクリーンのように見てしまう。

おまけに、自分自身の問題なのに、あたかも相手の問題かのようにとらえ、助言や提案をしてしまうことさえある。でも、本来その提案は自分自身にしなければいけないことであって、自分の未処理の問題をクライアントにやらせてしまってはいけない。

だから、自分を知るというプロセスを、しっかり自分に対して行い続けることがセラピストの大事な仕事。

 

 

―それでは、セラピストの枠にとどまらず、人が自分と向き合うことの意義はどんなところにあると思われますか?

【柴崎】自分に向き合うことの意義は、古代ギリシャの頃から言われているわけですよ。「汝自身を知れ」という文字がギリシャの神殿の門に掲げられていて、自分を知ることの大切さはその頃から言われていた。

世の中のことで不思議なことは科学が解明していくわけじゃない?だけれども、自分については、どうしても科学が追いつけない。非科学の分野だからこそ、いろんなアプローチが生まれたわけ。
宗教が生まれたり、哲学が生まれたり、そういう分野がたくさん生まれたけれど、心理学はその中の一つで、僕たちはユング心理学のプロセスを使うことによって、〈自分が本来の私になっていく〉というプロセスを大事にしている。

人生100年だとしたら、100年かけて本来の私になっていくということ。

―今の時代に、「自分を知ること」は大事だと思われますか?

【柴崎】今の時代に限らず、いつの時代も大事。
ただし、こういうコロナの時代を生きているなかで、科学はワクチンや治療薬を開発したり、目覚ましいことをやっていく。それはそれで、僕らはすごく救われているわけだよね。

だけれども、その都度、心が脅かされたり、人間関係で不具合が生じてしまったり、そういったことを科学はどうしてあげることもできない。
そうすると、それは何が問題かというと、もちろん環境とか、情勢とか、感染のリスクとか、そういった外的な要因もたくさんあるけれども、内的なその問題にいかに取り組んでいくのかと言うことなんです。

世の中、現実に起こっていることは、マッキーが見ているそれと、僕が見ているそれは微妙に違う。つまり、起きていることは一つなんだけど、それをどう受け止めてどう解釈するかは、人によってみんな違うわけ。

だからこそ、自分はどんな風に受け止める傾向があるのか、そういうことをちゃんと知っておくことが、自分が今日生きること、明日を生きることにすごく役に立つ。

―自分に向き合っていく生き方と、そうでない生き方とでは、何が変わってくるでしょう?

【柴崎】どんな生き方でも原則はいいんだと思う。

僕は自分を知るということをきっかけに、自分の人生が大きく変化したという自覚があるけれども、そんなもの知らなくたっていいという人生だってある。どれがいいとか悪いとか比較できるものではないんだよね。

道行く人に「自分を知ること大事ですよ」っていくら訴えても、その人がそれを価値あることだと認めない限り、何の価値も意義もない。
ただ、僕にとっては、自分を知るというプロセスはとてもよかった。

―自分を知ることで、先生自身はどう変わりましたか?

【柴崎】僕は30歳位まで自分を知らないでいたことによって、楽しいこともありつつも、何かこう、もがいていて、たどり着けない不足感をたくさん味わっていたわけ。
そのうまくいかない理由をすべて外的な要因、家庭環境とか、周りにいる人とか、そういうことが原因で今こんな苦しい思いをしていると思ってた。

つまり、自分の人生は外の要因によってよって大きく影響されていると思って生きていたんです。

―今は?

【柴崎】自分と向き合うことを通して、好きなこと、嫌いなこと、そういった一つ一つを全部検証していって、弱点を直すのではなく、あるがままをいったん認めよう、ごまかすし、先延ばしにするし、逃げるし、そういったところもいったん認めた。

それから、自分はそういった自分の好きではないところをどうしたいんだろう?って考えた。そんな風に自分に取り組む作業が始まって、今に至るかな。

そのことで明らかに違ったことは、自分らしく存在できるようになったこと。それまでの社会に合わせようとする自分ではなくね。以来、40年近く、いまだに自分に向き合って、自分と取り組んで、わからないこともたくさんある。

 

 

―自分を知るということとアートの親和性はどんなところにあると思いますか?

【柴崎】アートセラピーは、精神とか、心とか、目に見えないものを目に見える形にするということや、或いはそこにあるエネルギーをどう外に表現していくのか、ということをこの現実の世界で認識できるメリットがある。

僕らは表現をする生き物なので、その表現を心理分析とか臨床的なケアに活かすためには、表現を目に見える形にしていく作業っていうのは価値ある作業になってくる。

アートセラピーで取り組むアートは芸術性を見るための検査ではなくて、その人の今心の中に起きているものが、たとえ一本の線であっても、そこに表れたものはその人の心が現れているんだという前提に僕たちは立っていく。

―表現するって、とても力がありますね。

【柴崎】表現というプロセスには、心の中のバランスを取り戻していくチカラがある。たとえば、人生で誰しも失敗したり、傷ついたりすることで落ち込むことは避けられないかもしれないけれど、そういう時に、画材があれば、自分の中のエネルギーを外に出すことができるよね。願わくば、そこにセラピストがいてくれれば、それをそのまま受け止めてもらう体験が起こる。そのことが、気持ちが少しでも救われるプロセスにつながる可能性は高い。

―エネルギーや気持ちを「出すこと」と「溜めること」の違いは?

【柴崎】溜まり続けると、溜まっていることにすら気づかないことが多いよね?つまりストレスフルな状態に気付かないまま生活する。「ストレスがあるなぁ」と認識できている時はまだいいけれど、ものすごく深刻になると、そんなことにも気づけなくなる。そうやって溜まり続けていると、心の中のバランスが崩れてやっぱり心や体の不調につながるよね。

―世の中ってそもそも循環が常なんですね。きっと。だから、溜まっている状態っていうのは、そもそも摂理的にもおかしいのかもしれませんね。

【柴崎】そうだね。だからこそ、アートで表現をして、出していくっていうことは自然なことなのかもしれないね。しかも、アートは、僕たちが自分を知ることを助けてくれる。

―魅力的なツールに出会えて、ほんとにしあわせだなと改めて感じます。今日はありがとうございました!

 

柴﨑 嘉寿隆プロフィール
株式会社クエスト総合研究所代表取締役
JIPATTディレクター(Japan International Program of Art Therapy in Tokyo Director)
NPO法人子ども未来研究所 理事長
立教大学経済学部卒